ポレポレ先生の実践日記

小学校で教員をしています。日々の出来事、思いを書いています。

適切な環境

7月中旬、インターネットでニュースを何気なく見ていると「障害を理由に本人や家族の意向に反して就学先を特別支援学校に指定したのは違法として、児童とその両親が、市や県に地元小学校への就学を求める訴えを地裁に起こした。」というニュースが、配信されていた。


児童は重度の心身障害をもっていて、人工呼吸器をつけているという。

両親は「幼稚園では、同年代の友達と接することで笑顔も増えた。大人の指導が中心の特別支援学校では、地元の学校のような成長は望めない」と記事にあった。


記事のコメント欄には、「モンスターペアレントだな」とか、「身の程を知るべきだ」とか、「親のエゴ」とか、「特別支援学校の先生や児童、生徒をバカにしている」などと辛辣に書かれていた。


記事のコメントは、教育とあまり関係のない人が書いているので、こういった批判は、仕方ないだろう。


ただ、私としては、どうして裁判をするほどに至ったのかが気になってしまった。そして、この子が本当にいい環境がどこなのかを考えてみたい。


○親の思い

私も教員になって10年以上経ち、特別支援級の経験、療育で働いていたこともあるので、障害児をもつ親御さんと接する機会が多い。

親しくなると、身の上話や、障害児を持つ親の苦しさを吐露することが多かった。

そこで気づいたことは、「障害の受容は一生続く」ということ。

障害児を持つ親御さんは、入園式や入学式など節目節目で心を揺さぶられる。嫌でも定型発達の子を意識してしまう。また、そういった姿を見て「なぜこうなってしまったのか」とやり場の無い気持ちが生まれてしまう。

また、節目節目で行う福祉行政や教育行政とのやりとりも苦しくなる時があると聞いたことがある。もっとも、福祉行政や教育行政が適当にやっているという話でなく、親御さんのメンタル面が問題なのだが…。苦しんでいる人が多い。


今回、提訴に踏み切った親御さんは、頑張って、頑張って子と共に苦しみながらも、走ってこられたのだと思う。そして、今回就学にあたっての教育行政の対応がきっかけで、積み重なった怒りが爆発してしまったのだと思う。


もう少し、我々教員サイドも親御さんの思いにリアリティをもって事にあたらないといけない。こういった事象には、一般論や常識論は通用しないだろう。今回の提訴は、我儘や親のエゴではないと私は思う。


○地元小の特別支援級に入ること

今回のこのケースでは、支援学校ではなく地元の小学校に通いたいという訴えなので、地元の小学校特別支援級に入級するのだろうと想像がつく。

親御さん的には、定型発達の子達との関わりで成長を促させたい思いがあるのは、記事の通りだ。

しかし、私は総合的な判断からその考えは再考したほうがいいと思う。

理由は3つある。

1つ目は、人材の問題。

小学校の特別支援級は、人材難である。学校によっては、産休や療休の代替として来る臨時任用職員が当てられることが多い。ちなみに私の勤務していた学校では、多い時には半数が臨時任用職員だった。臨時任用職員は、経験がない、または浅い人が多く、特別支援の知識がない場合も目立つ。正規職員も、通常級担任ができなくて流れて来るケースもある。よって、支援学校のようにきめの細かい指導は期待できない。また、当然、特別支援学校では定番である機能訓練もできないから、機能面の発達も期待できない。


2つ目は、特別支援級は、障害領域がバラバラだということ。自閉症スペクトラムや、adhd、先天性の知的障害、聴覚障害視覚障害、病弱児などバラエティーに富んでいる。特に、最近では、情緒障害系の児童の在籍が多い。情緒障害系の児童は、ふとしたきっかけで、暴れたり、物を投げたりと振り切った行動をする。周りなんか御構い無しで、物をひっくり返すこともザラだ。私自身も、他害行為により、骨折寸前まで追い込まれた経験もある。そんな中で呼吸器をしている子に、当然危害が及ぶ可能性も考えられる。はたして、そんな環境が本当に適した環境だろうか?


3つ目は、学級の運用形態の話である。

例えば、ある小学校の支援級には、肢体不自由の子が1人、自閉症スペクトラムの子が7人、病弱児が2人いたとする。そうなると、学級数は3つ(肢体級、自閉症情緒級、病弱級)になる。そして先生は3人になる。

しかし、実際には、自閉症情緒級の先生は7人みることはない。人数や相性を考慮しながら、運用しやすい形態に、各先生に児童を割り振るのである。なぜか、それは、できる限り大変さを均等にするからである。なので、ほとんどの支援級では、公募上の運用と実質の運用が違う。もし、手のかかる自閉症情緒の子と肢体の子のセットがあったとしたら、これは明白。肢体の子は、手をかけてもらえない危険性がでてくる。


簡単ではあるが、以上の点から、重度心身障害の子の支援級在籍は、将来的にその子供のためにならないだろう。人員配置を手厚くする例えばその子専属で1人くるとか、看護師が常駐するとかしないと、現場も対応は難しい。子供の安全が担保できない環境に行かせるのがはたしていいのか私は疑問である。


今は、小学校と話せば居住地交流もできるし、色々な取り組みもできる。スカイプなどをつないで支援学校と小学校をつないで話したり、関わったりもできる。定型発達の子との関わりは、アイデア次第で広がってくるのではないだろうか?